能書きを書くのが趣味。

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現代ラノベのエッジランナー、藤孝剛志を読め!【即死チートが最強すぎてシリーズ】

 どうも、能書きを書くことを趣味とするものです。


 今回は、藤孝剛志というライトノベル作家について書きます。
 とはいえ数多のライトノベル作家が泡のように浮かんでは破裂していく昨今、作者名だけでわかるようなガチ勢は数少ないと思います。
 代表作は、このほど原作が完結し、アニメ化も決定したこれ。

「即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。」シリーズ。
 
 アニメ化が決まっただけあって、この作品、一般に「なろう系」とされるジャンルの中でも、かなりランキング上位にある作品です。コミカライズも普通に成功しており、知っている人は普通に知っているんではないでしょうか? メジャーなろう系と言えます。

 ただしそれは、この作品が普通のなろう系に属することを意味しません。
 むしろ僕は、カッコ付きで語られる「なろう小説」で、もっとも尖ったな作品の一つであると思っています。結構な古参連載でありながら、余裕でエッジです。
 エッジなんだから、これは読むべきだと思う。藤孝剛志を読まないで、なろう系やラノベ現代日本エンタメを語ろうなんて、ウォーホルやバンクシーを見ずに現代美術を語ろうとするようなもんですよ。


 面白いとか好き嫌いとか関係なく、藤孝剛志は読んでおくべき。
 この記事ではそういう論法で、僕の好きな作家をゴリ推していきます。
 
 なお、以下、ネタバレに対して一切の容赦がない。

 ネタバレに対しての一切の容赦がない(念押し)。

 お勧めされるまでもなく読む気が少しでもあるなら、原典を買ってください。

 

 

+デビュー作『姉ちゃんは中二病』シリーズ

 藤孝剛志は、web小説出身でこそありますが、実はいわゆる"なろう作家"ではありません。
 まだなろう系という言葉が一般に広まり切っていない2013年、普通に投稿作がラノベ賞を受賞して、HJ文庫からデビューしました。
 デビュー作は『姉ちゃんは中二病シリーズです。 

 公表されているラノベ賞の選評によれば「粗削りだが勢いを感じる」ので金賞受賞になったとのこと。
 僕は、この時審査員たちをうならせた「勢い」とは、今やスタンダートと化した、なろう系の潮流だったのだと思います。


 この『姉ちゃんの中二病』がどういうお話なのか、ざっくりネタバレ解説します。
 まず主人公の男の子には、破天荒な姉がいます。この姉は重度中二病かつ弟を溺愛しているので「弟が大切だからいついかなる時もサバイバルできるようしてあげよう!」という思想のもと、めちゃくちゃな武術の訓練を弟に施しています。
 で、そんな主人公が、いろんな超常の敵と出会います。
 まず、クラスメートの女の子が殺人鬼であることが判明してしまいます。殺人鬼であることがばれたので、女の子は主人公に襲いかかってきます。殺人鬼は種族的な意味での鬼でもあって、戦闘能力も凄いです。
 が、中二病の姉を持つ主人公は、そこそこ余裕でのりきります。
 彼は姉の影響でめちゃくちゃな武術の訓練をしていて、超強いからです
 更に、クラスメートの別の女の子が吸血鬼であることも判明します。この女の子は自覚がなかったけど実は吸血鬼の真祖の家系で、なんと兄が世界征服をもくろんでいます。つまり、神祖吸血鬼が世界征服に乗り出しきたわけですね。
 が、中二病の姉を持つ主人公ならば、普通に倒せてしまいます。
 彼は姉の影響でめちゃくちゃな武術の訓練をしていて、超強いからです。
 無茶苦茶な能力者も登場します。その敵は「主人公」という能力を持っており、彼のやることなすことは全て主人公的に上手くいきます。ヒロインと会えば撫でポし、ピンチになれば助けがきて、必要になれば突如能力に覚醒します。ドラえもんでいったら、ソノウソホントの使い手です。そんな無茶な!
 が、中二病の姉を持つ弟が戦ったら、わりと普通に勝てました。
 彼は姉の影響でめちゃくちゃな武術の訓練をしていて、超強いからです。


 おわかりでしょうか。藤孝剛志の書くお話は、一事が万事この調子です。
 

 

+「なろう系小説」に一家言があります

 藤孝剛志の書いているようなストーリーは「俺tueeee小説」と言われています。昨今は「なろう系」と言われていることのほうが多いかもしれません。まあ、"小説家になろう"は小説を発表するサイトで、なろうには俺が強い話も弱い話もさまざまに違う系統の作品があるので、実は不正確な表現……なんだけど、さすがにここで正確性に拘ってもしょうがないか。要するに、さすおにだとか、イキリ太郎だとか、そういうミームで揶揄されがちな、一連の「なろう系」というジャンル、読者の感情移入先である主人公がとにかく強くて気持ちよくなれる小説があって、藤孝剛志はそれに属するという訳です。
 
 この「なろう系=俺tueeee小説」について、藤孝剛志にはかねてより一家言があったようです。

 商業処女作である「姉ちゃんの中二病」シリーズの、第4巻には、サブヒロインとして、同じ学校に通う高校生ライトノベル作家、というキャラクターが出てきます。

 彼女はストーリーの流れで、主人公姉弟に「最近の流行だという俺tueeee小説(なろう系)とは何なのか?」を相談します。
 そして、作者の分身たる中二病の姉が、持論を開陳する。

「最近のラノベなんかでは俺tueee要素が無いと売れないなんて言われていて、それに対して愚痴を言っているラノベ作家なんてのもいるらしいんだけど、俺tueeeを最後までやり切っている物語なんて滅多にないのに、何言っちゃってんの!?、こいつ!? とか私は思っているわ!」
「そうなのか? そんなのばっかだって聞いたことあるけど」
「全然だめ! 最初はね、俺tueeeで始まっても絶対に最後までその調子ではいけないわ! 結局同格のライバルが現れたり、格上のラスボスが出てきたり、葛藤したり、困難に直面したりするのよ! そうじゃなかったとしても、暴力ヒロインの尻に敷かれたりとかそんなことでバランスを取ろうなんてしちゃったりするのよ!」
「そりゃ……ずっと強いままなんてメリハリなくてつまんないんじゃねーの?」
 出てくる敵は全て瞬殺、どんな問題もあっさり解決して、悩みもしない完璧超人が主人公であれば、その物語は実に平坦なものになるだろう。
「そう、そう思っちゃうのよ! 物語作家って人たちは! けどね! 私はそんなものを求めてないの! とにかく終始tueeeしてくれ! って思う訳よ! そしてこれは決して少数派の意見ではないわ!」

*省略アリ。強調部は引用者

 

 こういう主張は、2023年の今でこそまあまあ聞いたことあるなという感じがします*1が、2014年出版の中二病姉4巻出版時点では、結構コアな読者の間でしか語られてなかった気がする。引用中で言われているとおり、少数派の意見ではなかったのですが、意見を言語化できている奴は少数だったというか……(2014年はさすおにアニメの放映されていた年です)。
 つまり、藤孝剛志はこの時点から、かなりコアな読者であり、同時に尖ったエッジの上に立とうとする作者でした。 
 そしてそんなエッジランナーが、その後の2016年度に、"小説家になろう"で発表した作品が、『即死チートが最強すぎて異世界のやつらがまるで相手にならないんですか』シリーズになります。
 
 

+マジで本当に主人公が最強のなろう小説

 ここで一応、「即死チート」シリーズについて、内容を解説しておきますね。
 上のリンク画像はコミカライズ版ですが、主人公は表紙に映ってる男の子のほう、高遠夜霧くんです。
 いわゆるクラス転移の文脈で、異世界にやってきました。クラスメイト全員が異世界召喚にまきこまれて、全員がスキルを貰うタイプのやつですね。でも彼は異世界でスキルとかもらう前から、特殊な能力者だったので、転生してからスキル貰った仲間たちより圧倒的に有利……という、これもまた、まあまあある展開。


 ただし、夜霧くんの能力は「任意の対象を即死させる」というものです。彼が殺したいと思った相手は、即座に死にます。要するに、エターナルフォースブリザードです。なんなら本文ツカミの説明パートに"エターナルフォースブリザード"って単語が出てくる。
 そして、夜霧くんは、死に属する能力を持っている応用なのか、自分を殺しかねない攻撃を事前に察知できます。そして反射的に、即死能力で反撃します。例えばスナイパーライフルで彼を狙って、引き金を引こうとすると、引き金を引ききる前に即死能力が発動して、射手が死にます。この発動範囲は非常に正確かつ広範で、広範囲爆殺で巻き込み事故で殺そうとすると爆破スイッチを押す前に即死しますし、目にもとまらぬ速さで殺される前に殺そうとしたら速さを発揮しようとした段階で死にますし、他人を洗脳能力で操って殺そうとすると洗脳された直接攻撃者だけじゃなくて洗脳能力者も死にます。攻撃を察知されないことは、一切できません。

 極めつけに、何が「即死」にあたるかは、夜霧くんが決めます。ゾンビはもう死んでるから殺せないだろ! と言ってたら、ゾンビは死にました。ロボットは機械だから殺せないよね!? とか言ってたら、ロボットは機能を停止しました。夜霧くん的には、どんな理由があれ動いているなら生きており、止まっていれば死んでいると考えるからです。

 死んでも蘇生魔法で生き返します! とか言ってるやつもいたけど、夜霧君は「いや死んだってことは生きかえらないってことだよね?」と思ってるので、即死後はもう蘇生魔法も効きませんでした。常識とかファンタジー世界の設定などより、彼の認識が優先されるのです。
 夜霧くんの認識が優先なので、考え方次第で、なんでも殺せます。道をふさいでいる邪魔な結界を「即死」させて破壊する、なんてこともやってのけます。


 いや、これは誰にも殺せないですね。まさに最強です。
 最強なので、同格のライバルが現れたり、格上のラスボスが現れたり、葛藤したり、困難に直面したりしません。とにかく終始俺tueeeeします。

 作者の藤孝剛志は、前作品のなかで言及していた通りの、真の俺tueeee小説を書きました。有言実行というわけです。素晴らしいな。僕がまず皆様にお伝えしたいのはこのこと。「即死チート」ファンの人も、以前からずっと藤高剛志がそうだったことは、あまり知らなかったんではないです?


 

+マジで本当に主人公が最強だと物語はどうなってしまうのか?

 特筆すべきは、主人公がマジの本当に最強であることによって、小説全体が「最強であるとはどういうことなのか?」を掘り下げる思考実験めいてくるという点です。僕たち読者も、強くて無双がどうこうより先に、それを楽しみにしてるところがある。

 

 例えば最序盤で出てくる展開に、こういうのがあります。

 手加減の実験をするためだ。
 二人はこの街に来るまでに力の使い方を話しあっていた。夜霧の力はあまりにも強力なため、使い勝手が悪い。そこでもう少し手加減ができないかと相談しあったのだ。
「半分死ね」
 虎の獣人を指差し言う。虎の獣人はたちまち崩れ落ちた。夜霧は下半身を狙ったのだ。これが手加減として考えた方法の一つだった。
 虎の獣人は意味不明の叫び声をあげた。生きてはいるようだが、その叫び声もすぐに止んだ。
 ——ま、当然かいきなり上半身になったら普通は死ぬだろうし。
「余計な力を使う割には上手くいく感じがしないな……」

※引用中に略アリ

 マジの本当に最強のチート主人公は、手加減が苦手! 
 なぜなら何をやっても敵は死んじゃうから!
 いやあ、なるほど、改めて言語化されると、そりゃそうだという感じがしますね。
 更に、手加減が苦手なせいで、夜霧くんは"敵を脅迫して情報を吐き出す"とか"敵を説得していったん引いてもらう"みたいな行為にもしばしば苦戦します。彼が力を発揮したときはもう相手は死んでいるので。
 そういえば、他の作品のあのキャラやあのキャラも、脅迫で敵から情報を引き出そうとして、失敗してたような気がする。それで「チッ、手加減は苦手なんだよな」とか言ったりなんかして。うんうん、これでみなさんも最強キャラの理解の精度が深まりましたね。自分の小説に最強キャラを出す時はやってみてください。


 他に、よく読者間でも引用される点として、こういうのもあります。

 異世界召喚した奴が、高遠夜霧ってなんなんだよ? を知るために、元の世界から「高遠夜霧を知ってる奴」を召喚したシーンです。

 慌てていた男だが、何かを納得したのか、興奮してぶつぶつと言いながらポケットから携帯端末を取り出す。
「あははははははっ」
 そして、携帯端末の画面を見た男は、気が触れたかのように笑い始めた。
「奴が、奴の反応がここにある! そうだよ、奴が死ぬなんてありえないんだ! ここに奴を連れてきたのが、あなたたちだというんですね! ならばあなたたちは救世主だ! 文字通りに世界を救ったんですよ! 僕が世界、いや、人類を代表して、感謝の意を伝えようじゃありませんか!」

引用中に略アリ

 この会話、なんなんです? 説明しましょう。
 高遠夜霧くんという男は、別に転生してチートを貰ったわけじゃなくて、現代日本にいるときから即死チートで最強だった。それっていうのは一体どういうことなんでしょうか? 日本で人を殺しまくってたの? そうだとして、彼は自分の能力をどうやって秘密にしていたのか……?

 結論だけ言うと、秘密になどできていませんでした。

 彼は、現代日本にいる頃から、複数の世界的組織から監視され管理される存在であり、いつ誰を殺すかと怯えられていました。

 いや、そりゃそうですよね。マジのガチで最強の主人公は、現代社会で軍隊とか警察と戦ったって、普通に勝つんですよ。そんな奴がまともに扱われてるわけない。範馬勇次郎アメリカの衛星に常に監視されてるし、他の最強主人公だってそうでないとおかしい。特に夜霧くんの場合は、政府に便利に使われてすらいなかった。便利に使おうとしたやつも好きに殺せるからです。なので、腫れ物扱いと呼ぶのすら烏滸がましい、まだ爆発してないだけの地球破壊爆弾みたいな扱いを受けていた。

 皆さんもマジでガチに最強のキャラクターを自分の物語世界に作った時には、そのキャラを監視する世界的組織も同時に設定してくださいね。必要なので。

 

 

 高遠夜霧くんは、世界から監視される存在だったので、実は一緒に異世界転移してきたクラスメイトのうち何人かは、陰陽寮とかCIAとかの組織から派遣されている監視エージェントです。
 その、主人公監視エージェントどうしの会話も、序盤のかなり面白いポイントなんですよね。

「怖く……ないんですか?」

「怖い? ああ、そっちとは考え方が違うのかな。もしかして高遠くんのことを化け物だとか思ってる?」

「違うのですか?」

「そうだなぁ。ごく単純に考えたらいいと思うよ。全ての生き物の死を支配する存在。それって何?」

「まさか……」

「現実に存在するそれを知った私たちは揺さぶられ、結果、今までの信仰を捨てるしかなくなった。ま、そういうこと」

 そう言ってキャロルは出て行った。

 その新たな信仰は、異世界に来ても変わることがないのだろう。

引用中に略アリ

 マジでガチの最強主人公は、異世界転生する前から、大いなる神として崇められていました。

 そ、そこまでか!?
 いや、そこまでだよな。マジガチ最強ってのは、そういうものなんですよ。実際、夜霧くんなら、神殺しとか余裕だし。神を殺せるぐらいの存在とか、それはもう神なんですよ。マジでガチの最強主人公とは、クトゥルフ神話めいたえげつない神様であって、たとえ見た目と思考が男子高校生だとしても、たいてい人間に尊敬されたり承認されたりするより、むしろ恐怖され、遠巻きにされています。

 みなさんの最強キャラ設定ノートにも「*友達は少ない。孤独」の一文を書き加えておくように。マジガチの最強キャラってやつは、モテることはあるとしても、結局リア充になれる訳がないわけですよ。

 

 

 マジのガチの最強主人公の周りには友達だとか信頼できる人とかが、極端に少ない。ということは、懐いた犬とか、子供のころできた初めての友達の姿とかに凄い執着します。ヒロインもなんなら珍しい理解者ぐらいの立ち位置です。

 でも、そんな孤独な夜霧くんが、転移前までは普通の男子高校生をやっていた……ということは、幼少期の彼に絶大な良い影響を与えた、聖人みたいな親代わりの人がいたはず。マジガチ最強主人公の親は、常識をはるかに超えてすばらしい人格者です。そりゃそうなのよ。マジガチ最強主人公が人格者じゃなかったら、今頃地球滅びてるもん。

 その親とはどういう人物なのか……!?
 この辺の、異世界転生前のことは商業書籍版で掘り下げられており、それがまた非常に面白いです。だから、なろう連載で読んだという方も、ぜひとも有料版を買って読んでみてほしいんですが(ダイマ)。
 
 

+どんな敵にも勝てるなら、どんな敵でも出していい!

 もう一点、「即死チート」シリーズ、というか藤高剛志の作品全般に、強調しておきたい特筆点があります。
 それは、とにかく敵がクソ強いということです
 これ、いきなり説明の字面だけ見てもピンとこないと思いますが、本当に藤高剛志という作家の発明だと僕は思います。主人公がマジのガチで最強でありさえすれば、敵も際限なく強くできるんですよ。なんかもう強さのインフレとかいう話にぜんぜんならない。最初から最大値が∞(無限大)なので、逆にインフレの余地がない。

 

「即死チート」には、即死するための強敵が、わんこそばか? という勢いで現れますが、そのどれもが独創性に富んでいる。

 聖剣を携えた運命の勇者、太古の封印から目覚めた魔王
 そんなのまだ序の口です。
 神、ドラゴン、ロボット、他の転生チート者
 都合のいいことが必ずおきちゃうラッキーマン、時間能力者
 ダンシモンズのSFに出てきたシュライクみたいな異世界存在
 広範囲洗脳能力者、能力無効化能力者、世界を滅ぼすとされる邪悪
 世界設定を操作する能力者、レベルがとっくに億を超えてる転移者
 まばたきで起こす風圧で物理的に敵を殺せる筋肉野郎
 しかもそれらは、エピソードのボスとして出てくるんじゃないんですよ。ストーリーを進行していたら、わりとすぐに通常エンカウントします。誰も思いつかないことをやるというより、他の作者が自制してることを遠慮なくやってくるんですよね。

 藤高剛志にはそれができる。

 だってそうでしょ、自分で考えたラスボスの倒し方が思いつかなくて頭抱えるとか、よく聞く話じゃないですか。だからそうならないように、普通の作者はDIOの時止め時間に秒数の上限をつけるし、時を戻したり加速したりする能力は別のボスの能力にする。
 藤高剛志は、普通である必要がありません。なぜなら主人公が一番強いから。こうなるともう、設定を考えるのも楽しくて仕方ないでしょうね*2

 

 そんなアホみたいに強力な敵が、バンバンに出てくる。しかも、彼らは別に一枚岩でもなんでもなく、各自に思惑とか欲望があって、良く言えば破天荒な性格ぞろい。互いに協力とかしないし、なんならクソ敵とクソ強敵が戦っているのが世界観的には本筋でだったりする。

 なので、ストーリーも相応に破天荒になります。
 藤高剛志の書くストーリーは、基本的に通常のテンプレ構成をとらない。

 例えるなら、主人公がなし崩しに地下最強格闘トーナメントに参加することになった、という導入から、トーナメントの第1回戦に花山薫が登場。第2回戦はターンAガンダム。第3回戦はドクターストレンジ。準決勝は突然地下闘技場が爆発したために開催されず、地獄からエスタークセフィロスとギーグが蘇ってきます。

 あのね、誰ですか? 最強の絶対負けない主人公だと、展開が平坦になってつまらない、とか言っちゃってた人は。
 エスタークセフィロスとギーグが三つ巴になる話が、平坦なわけないだろ! むしろ制御不能寸前の暴れ馬です。藤高剛志の小説は、常にそういう暴走寸前の破天荒さを内包しています。*3

 なお、地下トーネメントの優勝者は決まりませんが、安心してください。傲慢な大会主催者は夜霧くんに会った結果、死にます。

 
 

+読者界隈へのメタ影響力も甚大

 もう一つ、これは言っていいのか? という類の話ではあるんですが、Google検索について。

 マジでガチの最強主人公である「高遠夜霧」の名前を、戯れにネット検索にぶち込むと、いったいどんなページが出てくるでしょうか? まあとりあえず公式が出てくるのは当然として、2023年末現在、上位で目につくのは2ちゃんねる最強スレwikiですね。

 古のインターネッターである僕にはまあまあ馴染みのあるサイトですが、令和でもまだやってることに驚く方もいるんじゃないか?

 最強スレの内容自体は、別にどうでもいいです。

 独特なレギュレーションでやってる界隈ではありますからね。基準としては全く一般化できない。

 

 それでも、検索したらまず最強スレに誘導される、ということ自体が結構面白いと思ってて。個人の狭い認識で、他の作品でそういう扱いを挙げた代表を言えとなったら、僕の世代ではまずDIO、そしてその次の世代ではアクセラレータでしょうね。*4

 やっぱりあそこら辺のキャラの強さってのは、他の作品を読んでいるときにもある程度念頭にあったっていうか。「ん~~~このバーン様っていうラスボス強くてカッコいい~~~、でもDIOが時を止めればたぶん勝てるから最強というほどでもないか!」みたいなことを、僕は普通に考えていました。そういえばバーン様の前にはバランの敵だった冥竜王ヴェルザーとかいう対等の存在もいるよな……と気づいたのは、DIO様との比較を考えた後のことで。

 高遠夜霧くんは、それと同じ逸材だってことです。

 

 たまにね、素人のファン以下の、碌に読みもしてないやつが言ったりする訳ですよね。なろう主人公の? ○○が最強で? だからこのキャラクターは作者の願望とか欲望の投影でメアリースーなんですよね~~~~とか。

 メジャー系なろう作家の、藤高剛志さえ読んでればそんなこと言う訳ないんですよ。

 だってその○○というなろう主人公、高遠夜霧よりもぜんぜん弱いですよ??

 まだまだぜんぜん控えめですよ。主人公最強ジャンルに括るなぞ烏滸がましい。

 

 これは強弁を承知でぶち上げるんですけど、高頭夜霧というキャラクターにはそういう認知を読者に与える力があるのではないか

 冒頭に引用で紹介した、藤高剛志の心の声をしゃべってるキャラも、言っていましたよね。主人公が俺tueeeに徹している作品は、この世になかなか存在しない
 だから、例えば「主人公が最強になっちゃうタイプの小説が俺は好きじゃない」と言っている人間がいるとしても、その批判者が嫌ってるのは、本人も判ってないだけで、主人公が最強であることじゃないんですよ。*5だってたぶん、そんなレアな小説読んだことない。

 だからまずは自分が読んでないことに気づいてほしい。

 高頭夜霧というキャラクターを知っていることで、読者は「自分が読んでいるのは主人公が最強の小説ではない」ということに気付くことができるのではないかな、という感触を僕は持っています。

 

 さすがにね、このエンタメの多様化した現代で、しかもネット小説ですから。

 今回アニメ化するとはいえ、DIOぐらい全ての読者が知っている定番キャラクターに、高遠夜霧がなるとは思っておりませんが。

 それでもキャラクターと作品、ひいては藤高剛志の作品全般を知っている読者に対しては、大きなある種の影響力を与える存在になっているのではないでしょうか。


+なろう系、俺tueeeに好き嫌いはあるよ? でもね?

 いやまあ、流石の僕も、藤高剛志とその俺tueee小説をすべての人間にお勧めする気はありませんが。
 普通に、癖が強くて客を選びますしね。
 "癖が強い"をより詳しく言語化するならば、非常に高度なオタク文化のハイコンテキストを要求する、ということでしょうね。あの漫画やあのラノベやあのアメコミのことは当然知っていますね? それに出てくるこういうキャラクターが人気なのもご存知ですよね? じゃあ……の上で読んで初めて面白いところがある。あと、メンタル面での受け入れ準備も関係あるかな、俺tueeeという文脈を恥ずかしく思わずに正面から接種できるかどうかみたいな。

 無作為に他人に勧めて好きだと言ってもらえる可能性は低そうです。単純に、なろう系の内部ですら、序列一位であるとか、一番面白い作品とか、一番売れる作品とか主張したら、首を傾げられる部類の作品でもある。ドラゴンボールとかワンピースの立ち位置ではさすがにない。

 でも、間違いなくある方向に一番尖ってる作品ではあります。

 だから、好きとか嫌いとかは一旦置いておいて、やはり読むべきだと思うんですよね。タイトルにも入れてますが、ラノベ界のエッジランナーなんですよ、この藤高剛志という作者は。かならず記憶に残るし、後世にラノベ文学史、文学のパターンを語るときには、例示の中に必ず入れたい作品群を書いている。

 とくに「なろう系」で、なんか感想とか評価とか語りたいなと思ってる人は、絶対に押さえておいてほしい。文芸を含む、広い意味でのアート分野では、どうしたって基礎教養ってものが発生してしまいます。オタク分野ですら、ガンダムとかジョジョとか押さえておくべき、義務として履修するべきみたいな感じになりますよね。
 その列に並ぶ作品の一つとなるのが、23年度冬期アニメ化・藤高剛志の「即死チート」シリーズとなります。
 いやアニメ化上手くいくかは、謎ですけども。でもコミカライズは面白いし、結構広報も力入っているしいけるんじゃあないか!? 

 頼む! 売れてくれ! バズれ!

  

 あと、藤高剛志の他の作品も、同じベクトルで面白いです。即死チートしか読んでない人、web版だけで書籍は買ってない人、この気に買って読んでみてはいかがでしょうか? 何せエッジの作家なので、ラノベ文芸出版でまあまあ打ち切りの憂き目にもあってたりはしますが、それでも作者買いする価値のある作家だと思いますよ。

 ハルミさんとか、どうにかもっと読めないものかなあ。

 

*1:今はアルファツイッタラーの風倉氏が同じ意味の主張をカクヨムのエッセイやSNSで展開したことで、だいぶ一般的な見解になった気がします。

*2:とある魔術の禁書目録』で鎌池和馬も同じ楽しさで最強の敵を出しまくっているのかもしれないな。でもあの作品の場合は、作者が敵の倒し方を考えるのに苦労しているという記事も読んだことがある

*3:この点勘違いしてると、即死チートシリーズとか展開が悪いと思ってしまう気がする。クセ強なので好き嫌いはいいけど、良し悪しを普通の小説の尺度ではかるのは辞めた方が良い。

*4:普通にそのあたりの作品を藤高剛志が好きで、影響を受けてそう。

*5:だいたいは、どちらかというと主人公が最強でないところを見せるやり方が気に食わなかったとかじゃないですかね? 日常の見せ方が面白いかどうかみたいな……。