「なんでアイツは脱走なんかしたの?」とかいう疑問の危うさ
今回は例の脱走したアイツの事件について思うところを書きます。
この事件が起こっている間、僕が住んでいる岡山県は比較的地理的にも近いということもあったのか、職場やら実家やらで、しばしば、「逃げてるね」「怖いね」「つかまらんかな」という話をする機会がありました。
その中で、必ずあった発言が「っていうかあいつは何で逃げたかな? すぐに釈放だったろうに」という疑問。
そういう疑問を持ってしまう人が多かった、という点に、そもそもの社会の歪さとかが表れている気がするので、ちょっと自分の中の整理をかねて書いてみます。
+「理由がないのが理由」です
まずは、冒頭の疑問に僕としての明確な答えを示しておきます。
もともと微罪であり、1年程度の契機で出る予定であり、模範囚であった平尾氏がなぜ逃げたのか。妹がどうこういう話が出てきたり、つかまってみたら本人は「人間関係が嫌になった」とか言っていたりしますが。しかしそれにしたって、冒頭の質問をしたうちの親父のような人にとっては「いや、逃げたらむしろ妹とは会えなくなるやろ?」「いや、人間関係キツくても逃げたらもっとキツイやん?」みたいな話に見える。
これに関して、俺が返す答えは一つです。
そんな後のことが計算できるんだったらそもそも犯罪なんかしない。
冒頭のような質問が出てくる人は、社会の底辺って場所にどういう人たちがいるのか、実感できてないのだと思う。無理もない。僕もたまたま友達に一そういうのがいるから判っているだけだし。
ヤツらは、あなた方の想像をはるかに超えてアホだ*1。24時間よりも先の計画はほぼ建てれないと思っていい。財布の中に金があったら、それが帰りの交通費だと判っていてもキャバクラかパチンコにいくし、次の日になって帰りの交通費がないから貸してくれとか泣きついてくる。*2
たぶん平尾氏は、あるときフッと「あ、出れるな」ということに気付いたんですよ。だから出た。出たあとで苦労するであろうことや、しばらく我慢したほうが確実だったことなど、そもそも頭の中にない。できたからやっただけで、他の理由などない。はずだ。
(僕は彼の人格や実際の状況を全く知らないので、これは後に論を進めるための空想だ、ということは申し添えておくけれども)
+「よほどの理由」を求めちゃうカシコイ方々
以上のような「脱走の理由」は、僕としては、話を聞いた瞬間からまあだいたいこんなところだろうなぐらいに想像がつくことだと思うのだけど。しかし今回、僕は結構多くの場で冒頭の「なんであいつ脱走なんかしたんだ?」という疑問を聞いた。ていうかずっとワイドショーではその話ばかりしてたし、捕まった翌日の今日も、報道の主眼が"今後の捜査で動機の解明を進める"とかでした。
なんかいい例ないかなと思って、真っ先に見つかったこれです。
内容としては、開放型刑務所の必要性を強調した報道です。それはいい。開放型刑務所に効果があるのは数字が証明しているし必要だと思う。それはそれとして、
ノンフィクション作家で、ここを取材したこともある斎藤充功さんは「なにか、よほどの理由があったとしか考えられない」という。施設は刑務官の監督下にはあるが、日々の生活は受刑者の自治ルールで運営されている。逃げ出す理由を見つけにくい
元刑務官は「規律はむしろ厳しいですよ。その悩みを刑務所側が受け止めていたかどうか、疑問があります」と語った。生活ルールは受刑者が決めるのだが、おじぎの角度、移動は隊列を組み、曲がるときは直角、毎日の反省会など、開放型であるがゆえにしっかりした自覚が求められる。ただ規則を守るだけの一般刑務所とは違うのだ。
この二つの描写が並行してならんでいることにちゃんと違和感を感じられましたか?
キツかったら逃げる奴は、そりゃあいるよ。
元刑務官という方は、流石に現場を知っていて、そのことが良く分かっていらっしゃる。逆にノンフィクション作家だという斎藤充功氏は*3、取材どうこうというより、ちょっと人間への理解が追い付いてないところがあるんじゃないか。
もっと言えば、開放してるんだから、どんなに楽だろうと逃げるやつは逃げるよ。前もって面接やらなんやらで入る人を選んでいるとはいえ、100%面接で人格が見分けられるなら世話ないって話だし。
なんていうんでしょうね、これって非常に危ないんじゃないかと思って。
つまり、社会にアホが存在することを想定してない、ってことですよね。
ちなみに、今回の脱走を「和製プリズンブレイク」とか見てしまったかたがたも、方向性が違うだけで、同じ間違いを犯していることに気をつけてくださいね。洋ドラみたいな大層な事がなくても、ほとんどの犯罪はその場のノリで起こる。その場のノリだけで広島まで逃げることもできる。
+アホを想定しない社会はアホを許容しない
この件について特に危ういと思うのは、社会的弱者の味方であるはずの、リベラルとか左派とか人権派とか平和主義者とか自認してる方々です。
人権良識派の方々ってのは、ノリで犯罪を犯しがちアホたちも「普通の人」として扱おうとするが、そのせいでアホに普通の良識ある反応を期待していると思うし、アホだと判った相手を「普通じゃない人」扱いしがちだと思う。
自分たちが保護しようと思っているヤツラはアホである、ということをきちんと認識できていないと、きっとおかしなことになる。
例えば、今回の事件でいえば、開放型刑務所の意義を強調するために、
「一部のアホがいるが、他の大部分はまともに更生している」
だとか言う人が沢山いると思います。
それがもうだめ。
開放型刑務所みたいな更生施設は、むしろアホのためにあります。だって賢かったら普通の刑務所に入って出てきたところで、別に再犯なんかしないのだから。今回たまたま平尾氏の場合は失敗したけれども、アホを100%救うのはどのみち無理なんだから、それはしょうがないぐらいの話。"他の大部分のまともに更生してる人たち"が普通で、平尾氏は例外事例であるとか考えるのは、まず間違いなく認知の歪みです。たぶんみんなそんな変わらないよ。
あるいは、今回の脱走が人間関係原因だという報道を見て、
「刑務所側はもっと受刑者の人格を尊重すべき」
だとか言っちゃったりする方々もいるでしょう。
それももうだめ。
人格を尊重すれば必ず分かってくれる、とかいう発想は、実際のアホを真のあたりにしたとき、きっと貴方を不寛容な人間にする。貴方が人格を尊重してあげたアホは、きっとあなたを裏切るよ。だってアホだから。弱者を救いたいとか、人権を追求したいとか考えるなら、貴方の金でパチンコに行ったアホのことは、とりあえず叱り飛ばしたあと、普通にいっしょに酒を飲みにいくぐらいの感性が必要です。金を渡しといてパチンコに使われたときに、人としてあり得ない!とか怒り狂うのは、それはあなたが”人としてあり得る"ことを知らなかっただけだ。
別に、アホの犯罪者を許せとか、逆にアホは殺せとか、そういう話じゃなくて。
現実を知らないと、ちゃんとした対策ってものが建てれないでしょう。
現実的に考えることができていたら、開放型刑務所のある島にはちゃんと海に向けて監視カメラしかけておくとか。刑務所が人格尊重ぶりが十分かどうかを平尾氏の証言だけで判断つけるのはヤバそうとか。そういう話にちゃんとたどり着くはずだ。
もっとも、直接物事を見聞きしてる現場は現実的にそういう対処をしているんでしょうが。
外野でごちゃごちゃいう人たちには、あまり現実が伝わってないように、今回の一連の報道と周囲の反応を見ていて思った次第です。
(今回は何だかいつも以上に能書き感があるなあ。)
(まあいいじゃん。趣味だし)
*1:一方で「彼らとつきあっていると、我々自身、我々が思っているよりもずっとアホに近い生物であることも分かってくる」とかも実は言いたいのだが、それはまた別の機会に。
*2:僕よりもずっと具体例に詳しい方の記事が話題になったことがありましたよね。
「貧困は社会のせいだ!」と信じて、生活保護申請随行のボランティアをしたら、クズばっかりだった話
*3:調べたら、刑務所ルポを積極的に執筆している方だった。他のキツイところを見過ぎて感覚が鈍ってたのかな……。