世の中にはいじめ対策の本やブログが溢れていますが、たいていの場合それは保護者や教師がどうすべきかについて書かれたものです。だからいじめられている生徒にどうするかといった話が中心で、いじめにあった当の本人はどう考えればはあまり書かれていません。書かれていても、「抱え込まないで先生に相談しましょう」とか益体もない方針が理由もなく告げられるばかりだったりします。あるいは当事者向けであっても、それは「いじめ加害者をいかにして法律的に追い詰め、社会的に抹殺するか」という内容だったりします*1。
別にそれが悪いという訳じゃなくて、大人に相談するのも、法的パワーに訴えかけるのも、確かにいじめ対策として有効です。
しかしなぜそれが有効なのかを理解しておけばもっと状況に即した役に立つ選択肢が見つかります。 この記事ではいじめに遭ったら当事者はどうすべきなのか、とりわけなぜそうすべきだと言えるのかを書いていきます。
(前段階としてなぜいじめは起きるのか?という記事も書いています)
今回は心構え編+防御編です。いじめに対処するにあたってのマインドセットのあるべき姿と、いじめ被害の辛い状況に如何にして耐えるかです。
+いじめられてると思うなら第一段階は既に完了
いじめに対処するにあたり、最初の関門は「自分がいじめられている」と気づくことです。
いじめが起こっている初期段階では普通、自分たちがやっていることがいじめであると気づいていません。気づかないのはいじめ被害を受けている側もです。
なぜ気づかないかというと、いじめでは誰かが「よしアイツをいじめよう」と決めたりしないからです。仲間のうち1人をからかったり、殴ったり、それをエスカレートさせたりするとなんだか楽しいだけです。そして、やられている側も「自分がいじられてみんなが楽しいなら、少しは我慢しようかな」とか思っていたりします。
もし貴方が自分がいじめられている/いたと考えているなら、どこかのタイミングで「あっ、俺もしかしていじめられてる!?」という気付きの段階があったはず。ということは、その時点でいじめ被害はかなりかなり大きくなってしまっているはずです。
でも、自分が今いじめられていると気づけたのたら、もうそれはいじめ解決の最初の一歩を踏み出したと言えます。まずはそのことをポジティブに捉えておきましょう。*2
+目指すは「いじめ加害者の仲間から抜ける」こと
前提条件を確認しておきましょう。
いじめ被害者のあなたは、いじめてくるやつの仲間です。
というのも、いじめは、同じコミュニティ*3のメンバーを対象に起こります。「いじめられている」とはいわば同じ群れの仲間が自分にひどいことをしてくる状態です。ただの他人や明確な敵がひどいことをされたら、単に怒って反撃すればいい。仲間が攻撃してくるから、いじめは辛いのです。いじめ被害者であるということは、加害者と同じ群れにいるということです。
それを踏まえて「いじめが解決する」とはどういう状態か? 一番良いのは加害者が悔い改めて仲良く親切にしてくれることですが、それはまず不可能でしょう。*4
いじめ当事者が目指すべきなのは、加害者たちの仲間ではなくなることです。
仲良くできない以上、仲間ではある必要はありません。クラスが同じだったりでなかなか難しいかもしれませんが、とにかく加害者たちと他人になって二度と人生で関わらないことを目指しましょう。恐らく、それが最も現実的な「いじめが解決した状態」です。
+仲間を抜けるのだから仲良くしなくていい
仲間を抜けるのだ、と明確に決意することは大事です。
というのも、大抵のいじめ被害者は「どうにか自分とも仲良くしてほしい」と思っているからです。
いじめ被害の当事者になる人は、どちらかといえば争いが嫌いなタイプのはずです。「俺をいじめるような奴は敵だ」とか自然と思えるような人はまずいじめにあいません*5。だから、いじめられてなお、性格が優しいために何もできなかったりします。
最初に貴方が何かされたとき、彼らから嫌われたくないがために笑ってごまかしたりしませんでしたか? 裏切りみたいだからチクりを躊躇ったりしませんでしたか? 嫌われたり責められたりするのが嫌で命令に従ったりしましたか?
そして何より、それらを継続してしまっていませんか?
やめましょう。限界ギリギリまで頑張って、彼らの機嫌をとっても無意味です。
あなたは彼らと他人になるのだから、好かれても嫌われても関係ないです。そういう覚悟を心の中で確認しておきましょう*6。
+主に対処すべき問題はストレスです
最終的ないじめ解決を目指すのとは別に、いま現在の問題にも対処する必要があります。
いじめ被害の当事者にとって最大の問題とは、ストレスです。
人間は継続的なストレスに晒されると、鬱になったり、体調が悪くなったり、注意力や記憶力が働かなくて失敗が増えたりします。そして最終的には鬱をこじらせて自殺してしまったりします。いじめ被害とはケガや物理的な危険による被害ではなく、主にストレスによる被害ですから、ストレスへの対処はいじめ解決と同じくらい大事*7です。いわば、いじめ攻撃に対して防御を固めるということ。
具体的に何をするというと、一般にストレス解消と呼ばれる活動をします。
- 趣味や好きなことをする
- 運動する
- 家族や友達と話す
- なんでもいいから笑っておく
- 規則正しい睡眠・食事をする
- ストレス源と接触する時間を単に減らす
他にもいろいろありますが、ストレスへの対処は大人にとっても大事なので情報は簡単に見つかるはずです。自分に向いたストレス解消法を探しましょう。
ストレス対策は、いじめに対する有効な防御であると同時に、解決方法にもなりえます。もしストレスに対処できさえすれば、貴方は時間という最も簡単な解決手段を得ることになるからです。学校を卒業するまでの状況を楽々我慢できるのであれば、それは「コミュニティを抜ける」といういじめ解決のゴールが楽々達成できるのと同じことです*8。
+ストレス解消と逆のことをしないように
注意しないといけないのは、いじめに限らず、人間は辛い目にあうとむしろストレスをため込む行動に走りがちです。よくある次のような行動はできるだけ避けましょう。どれもストレスに対する防御反応ですが、結果的にストレスは増加してします。
- 部屋に引きこもって一切運動しない。
- 昼夜逆転生活になり、太陽光を浴びない。
- 学校に行かず、他人にあうのを避ける。
- 辛いことを家族や友達に秘密にする。
- 怒られないよういじめっ子の呼び出しにはすぐ応じる。
例えば、気軽に不登校を行ってはいけません。テレビでいじめで自殺する事例ばかり報道されるため、「自殺するぐらいならいじめから逃げろ、学校行くな」とか言う人も多いですが、部屋から出ないことやいじめっ子に会わない代わりに他の友達に会えないことはストレスによる鬱傾向を加速します。それはいじめで受ける被害がかえって増えるとということです*9。
ただし、現にひきこもりや不登校になってしまったならそれは仕方ないです。なぜならば、学校に行けなかったということは既にストレスによる鬱病が始まっている可能性があります。鬱病になったことを責めるのは(自分で自分を責めるのも含め)最もしてはいけないことです。鬱が悪化すればそれもまた、いじめで受ける被害がかえって増えることに繋がります。
こうした行動の可否不可避の判断は複雑なようですが、ストレスに対処するという視点さえ持っていれば自分で容易に判断できます。
+避難場所にトイレを使うな
ストレス対策のなかで最も有効な手段の一つに、別室への避難があります。いじめ加害者とと別の空間にいる時間を長くすれば、そのぶんストレスが減るからです。
この効果は体感的にもわかりやすく、いじめが辛くなってくると多くの生徒が実行します。例えばよくある方法のうち、保健室に避難するのは非常に有効です。今の日本では、保健室の先生にそうやって避難した生徒を保護する仕事も求めており、邪見にされることはまずないでしょう。最近は国や県のいじめ対策で、週に何度か学校にスクールカウンセラーという人が通ってくることがあり、その人専用の教室があるなら、それはそもそも避難のために用意されたものなので遠慮なく使えます。
逆に、よくある避難先のなかであまり推奨できないのはトイレの個室などです。プライベートな空間のように思えますが、なんだかんだ言って公共空間だから割と他人が入ってくるし、なによりトイレは基本的に居心地が悪いです。ストレス対策で逃げているのに、ストレスが溜まりそうな場所に長時間居るのは不合理としかいいようがない。いわゆる便所飯なんてもっての他で、本来はストレス解消となる「食事」がストレスの原因になりかねません。
+いじめられていることを悲観しない
以上が、いじめ対策の心構え+防御編です。長くなりましたが、まとめてしまえば2行で済みます。
- いじめてくる相手と仲良くしなくていい。
- いじめに対処するとは、ストレス対策のこと。
この二つを心がけることができれば、ほとんどのいじめは「とても辛い人生経験」ではなく「今日起きた嫌なできごと」になるでしょう。
世の中には、いじめに近い目に遭ってもなんとも思わない人、というのが割といます。どんな人かというと、あまり人の目を気にしない性格の人です*10。クラスでいじめに遭っているとしても、そのことを悲観しないならば、大きなストレスは発生せず、いじめ被害は実質的に無くなります。
多くの人は、いじめが解決した状態を「みんなから仲良くしてもらえるようになること」だと思っています。しかし、自分を嫌っている人と仲良くしようとすることはそれ自体が不健康です。ここで僕が述べたのは、他人に嫌われてるという状況をどうやり過ごすか、ということです。完全に誰にでもどんな状況でも可能なこととは言いませんが、それに近い状況を目指すことは、いじめ当事者にとって良い指針になるでしょう。
次回はもうすこし積極的にいじめ解決を目指す、あるいはそもそもいじめられないための、抑止+攻撃編を書きます。
*1:きっと昔いじめられたことがある大人が恨み節を募らせているのだと思う
*2:「今まで学校嫌だなあと思ってたけど、それは俺がいじめられていたからか!」という驚きは、いじめられなくなって何年も後に来たりもするするので、それよりはだいぶ良いと言える……かもしれない
*3:大抵は学校のクラス
*4:仲良くできる相手ならそもそもいじめは起きてないし、もし可能だとしても、その実現は教師の仕事で当事者は適任でない。
*5:通常、いじめは反撃の心配がない相手が対象となります。
*6:ただし、身を危険から守るためなら、面従腹背するという選択肢はなくはない。何事もケースバイケースです。
*7:なおストレスを根源的に解決するには、ストレス源を完全に消さねばなりません。つまり、この場合はいじめのコミュニティから抜けることが根源的な解決です……が、それがすぐにできないなら解決以外の対応も必要という話。
*8:実際の統計から知るのは難しいと思うのですが、ほとんどのいじめは学校の卒業=コミュニティの解体によって「解決」しているのではないでしょうか。
*9:もちろん進学や就職にも直接的に悪い影響があります。統計的にも、実際に自殺が起こる事例は稀で、むしろひきこもったせいで大きなマイナスの影響が残るケースのほうが多いことが判っています。
*10:正直に言ってしまえば僕自身いじめられても平気なタイプの人間です。だから僕は、自分がいじめらている人の気持ちが判っているとは思いません。しかし僕と同じことができればいじめに耐えるのは容易だということも保証します。